【2025年5月13日(火)~7月13日(日)】

伊能忠敬記念館 第123回収蔵品展

 
 千葉県香取市佐原の伊能忠敬記念館では第123回収蔵品展が始まった。今回の展示では、岩手県盛岡市から青森県五戸町までの奥州街道の大図が2鋪、同地域の下図が2鋪展示されている。「奥州街道図 第十〈自郡山/至御堂〉」とその下図「自陸奥国稗貫郡花巻村至陸奥国二戸郡小繋村下図」を並べて展示しており、下図の役割がわかりやすく紹介されている。また巧みな照明により、下図に引かれた白径が鮮明である。
 今回の収蔵品展で興味深いのは、展示されることの少ない国絵図が出展されたことである。国絵図とは慶長・正保・元禄・天保の4回、江戸幕府の命令で作製された国単位の絵図で、国立公文書館が多く所蔵し、国の重要文化財に指定されている。余り知られていないが伊能忠敬記念館も63点の写本を所蔵しており、国立公文書館に次ぐ。国立公文書館の下総国の天保国絵図は466cm×362cmという巨大なものであるが、展示中の「下総国全図」も183×194cmという法量のため、東側半分の展示にとどめている。展示スペースに入らず展示不可能な国絵図もあるようである。
 忠敬が若年寄堀田摂津守の家臣に宛てて、国絵図借用を依頼した書状が残されており、全国測量にあたって参考のために、国絵図を縮小して模写したと思われる。ただし展示中の「下総国全図」は、下の写真のように、老中松平定信が発給した御証文を書き写しており、入手方法も時期も他の国絵図とは異なるようである。 寛政の改革の海防政策の中で、江戸湾防御のための地理調査「地理糺(ただし)絵図御出役」が実施され、寛政5年8、9月に出役があった。村方後見として対応した忠敬は、彼らが使用していた元禄国絵図の縮図を何らかの方法で写したと思われる。なお、文化11年7月3日の『江戸日記』には「高山本陣鍵屋与作より書状届く。国絵図返却」とあり、民間でも国絵図の写本が貸借されていた。
                 展示の概要は展示品リストをご覧下さい。(佐原 本川岸 T生)
展示一覧
 
国宝:地図絵図類582「下総国全図」部分 伊能忠敬記念館蔵、無断流用禁止